──はじめに
宅建試験に限らず、公務員試験や法律系の資格試験において民法が占めるウェートは大きい。
国家試験で出題される民法の難易度は、司法試験と司法書士試験、不動産鑑定士試験の3つがずば抜けて高く、宅建試験はそれらに比べると易しい部類に入るらしい。
宅建試験よりやや高い位置に、行政書士試験や公務員試験などがある。
もう一度おさらいするが、宅建試験では、1~10番までが純粋な民法で、11~14番までが民法の特別法(借地借家法、区分所有法、不動産登記法)という出題内容となっている。
この両方を合わせて「権利関係」と呼ぶのだが、民法の特別法の借地借家法のみ、概ね借地法と借家法の2問に分けて出題される。
市販の宅建試験用のテキストと過去問だけでは、権利関係全14問中、8問程度しか正解できない。
もちろん年度によって易しい年や難しい年があるため、一概に8問とは言えないのだが、標準的な難易度の年ならばこんなところだろう。
だから予備校あたりも、
「宅建業法や法令上の制限等でしっかりと加点し、権利関係は半分取れれば良い」
というスタンスのところが多いのだと思う。
とは言うものの、今年度から宅建試験など民法が出題される資格試験では、改正民法での出題となる。知っている方も多いと思うが、ここ2~3年の間に、民法の債権法と相続法が大改正された。
相続法は2019年から施行されたものが多いが、それ以外の債権法と、相続法の一部は2020年からの施行となるのだ。もちろん総則や物権にも法改正された部分はある。だが何といっても、債権法が大改正された意味合いが大きい。
これまで旧民法で勉強してきた人は、私を含めて、また一から改正民法を勉強し直さなければならない。そのことを熟知し、意識の高い人は、すでに改正民法の勉強を開始している。
今年、宅建試験を受ける予定の人で、昨年わずかの差で合格できなかった人にそういう意識高めの人が多い気がする。そういう意味でも、今年は例年以上に民法に力を入れて勉強してくる受験生が増えることが予想されるのだ。
仕事が忙しくて勉強時間を捻出できない受験生は仕方ないとして、一日に3時間以上の勉強時間を確保できそうな方は、通常の宅建試験の勉強とは別に、民法に特化した勉強をすることをお勧めする。
それも4月以降ではなく、今この時期に。1~3月という早い時期に、ある程度の民法の基礎を固めておけば、他の受験生と比べて大きなアドバンテージになることは間違いない。
権利関係の過去問や模試で安定して10点以上を叩き出せれば、宅建業法や法令上の制限で多少の失点があっても、合格点は普通にクリアできる。
夏以降に、安心して宅建業法や法令上の制限などに時間を費やせるようになる。このことの意味は大きい。例えば8月の時点で、権利関係に苦手意識を持っていたら、他の分野で追い込みをかける前に不安が頭をよぎり、追い込みどころではなくなる。
民法のマスターには、それ相応に時間がかかる。だからこそ、早い段階で民法をやるべきなのだ。
時間のない方は、この時期、宅建試験用のテキストと過去問の「権利関係」に集中すればいい。前回の記事で私が推薦した駿台の2冊の「権利関係」部分を、何度も繰り返してマスターしてほしい。
──民法の教材をセレクト
時間のある方は、次のテキストと問題集を用意して進めていってほしい。
・民法がわかった(改訂第5版/法学書院)
・新スーパー過去問ゼミ5 民法 Ⅰ、Ⅱ (実務教育出版)
両者とも公務員試験や資格試験用の定番中の定番とも言うべき教材で、行政書士試験くらいまでなら、これだけで対応できる優れもの。
宅建試験には少しオーバーワーク気味ではあるが、民法を得点源にしたければやった方がいい。マスターすれば、権利関係の民法部分で、10問中9問くらいは取れるようになる。
後者の『新スーパー過去問ゼミ』は、2冊で収録問題数が350問ほどあるが、必修問題と⚡️印の付いた問題に絞れば200問で済む。宅建受験生は、この200問をマスターすることに力を注いでほしい。
テキストの『民法がわかった』は定番商品だが、活字が多く、図や表が少ないので、好みではない人もいるかと思う。そういう人には代替品ではあるが、次のテキストをお勧めしておきたい。
・最初でつまずかない民法 Ⅰ、Ⅱ (実務教育出版)
上記『新スーパー過去問ゼミ』と同じ出版社から出ている公務員試験用の民法のテキストだ。『民法がわかった』と違って2冊組の書籍だが、こちらは図や表が多く、取っ付きやすい印象である。
また『民法がわかった』は400ページ余り、『最初でつまずかない民法』は2冊で600ページ余りだ。どちらかを好みで選べばいいと思う。
早い段階で民法をある程度マスターし、夏以降は宅建業法や法令上の制限で追い込みをかける。これが今年、宅建試験に合格するための最善の策であると信じる。頑張ってほしい。