──ラストスパート
夏休みが終わり、運命の2学期が始まった。しかし委員会活動は9月末まで続く。健斗にとって、ここが最後の踏ん張りどころだ。
ほぼ手付かずの税・鑑定と免除科目をモノにしなければならない。
昨年のこの時期は、それら以外に「法令上の制限」が手付かずだったことを思えば、今年はまだ良い方である。
宅建業に従事している人は、登録講習を受けることで最後の5問が免除され、45点満点の試験となる。
通常の合格基準点より5点低くても合格できるシステムだ。
約2割の受験生が、この「5問免除システム」を利用する。当然のことながら、こちらの方が合格率は高い(概ね20~25%)。
健斗はもちろん、残り8割の一般受験生だ。
免除科目は比較的容易で、難しいのは住宅金融支援機構法くらい。
税・鑑定は、不動産取得税と固定資産税、地価公示と不動産鑑定評価基準に絞って、3点中2点を取りにいく作戦に出た。
所得税(譲渡所得)は難しいので、健斗には捨てるよう助言した。
とはいうものの、9月の勉強の中心はあくまでも日建の『どこでも過去問』3冊であり、税や免除だけを勉強していたわけではない。
どこでも過去問❶〜❸は、最終的には20回転を超えた。
また市販の宅建模試も、9月下旬に2社分解いた。日建の最新版(3回分)とLECの直前予想模試(4回分)である。
7回分すべてが40点以上だった。
2014年版の市販模試は、TACを含めて合計10回分を解いたことになる。
TACで38点が2回あったが、他は40~44点なので十分だったと思う。
余談だが、9月下旬のこの時期に、健斗が通う小学校で「後期の役員」を決める選挙があった。
その選挙で健斗は、幸か不幸か、児童会の代表(中・高でいうところの生徒会長)に選出されてしまったのだ。
大変名誉なことではあるが、本試験前の大事な追い込み期。
健斗には「おめでとう」と言いつつも、ため息が出たのを覚えている。
──LECの宅建ファイナル模試
10月に入って最初の日曜日、すなわち宅建試験の2週間前。最後の力試しとして、LECの受講生ならほぼ全員が受ける有料の「宅建ファイナル模試」を、健斗が受けることにした。
会場は、0円模試の時と同じLEC名古屋駅前本校。大手予備校LECが、今年度の本試験を予測して総力をあげて作成したオープン模試だ。
さすがにこの時期となると、みんな力を付けてきている。加えて問題も難しくなっているだろうから、前回の0円模試のように「40点」を取るのは容易ではないと思っていた。
ところが健斗は、ここでとんでもない成績を取ってしまう。試験直後の自己採点で、なんと
「45点」
嘘みたいな点数だ。9割も取れている。市販の模試を含めても過去最高得点ではないか!?
大人に混じってのこの成績は、自分の息子のこととはいえ恐れ入る。
宅建業法に至っては、全問正解の20点。権利関係は14問中11点、法令上の制限は8問中7点、税ほか免除科目も8問中7点だった。
後日、郵送されてきた成績表によると、ファイナル模試の全受験生の平均点は29.7点で、健斗の総合順位は、2426人中で「18位」となっていた。
この結果を見て私は、健斗の今年の合格を確信したようなものだった。あとは体調管理に気を付けて本試験を迎えるのみ、、
と思いきや、このあと更に、とんでもない落とし穴が待ち受けていた。
本試験日直前の「修学旅行」である。
──魔の修学旅行
宅建の本試験日が10月19日(日)なのに、修学旅行は10月16、17日の一泊二日だった。まさしく本試験日直前。旅行先は京都と奈良。
修学旅行に、宅建のテキストや過去問なんか持っていけない。丸々2日間、いや15日の夜も旅行の準備をして早めに寝るから、正確には3日間、まったく宅建の勉強ができないのだ。
まさか宅建のために大切な修学旅行を休むわけにもいかず、これには健斗も私も苦笑いを浮かべるしかなかった。
そして16日の早朝、私は健斗に
「しっかり楽しんでおいで」
と声をかけた後、集合場所である三河安城駅まで送り届けた。
駅前の広場でクラスメートと合流してからの健斗は、笑顔いっぱいの修学旅行モードへと完全に切り替わっていた。帰り際に私は、
「いい思い出を作ってこいよ」
心の中でそう呟いた。一抹の不安と共に、、