──病院の待合室で
たわいないエピソードを一つ。
私には年老いた母がいる。父はもう他界していない。今から12年ほど前の話だが、母は胃腸が弱く、月に一度、胃腸科の専門病院へ私が有給休暇をとって車で送り迎えをしていた。
当時はまだ、私も宅建の勉強を始めたばかりで、外出時は常にテキスト(宅建学院の『まる覚え宅建塾』のこと)を持参し、暇があれば眺めていた。
病院の待合室にいる時も、必ずテキストを開いていた。
待合室は、ぐるっと円を描いたような広々とした空間で、壁側に長椅子風のソファーが設置され、一様にそこにいる人たちの表情が分かるような仕様になっている。
そんな中、私だけがテキストを開いて勉強していたのだが、その様子が他の人々にまる見えだった。
向こう側には、中学生か高校生らしき2人の男性患者がいた。不思議そうな顔でこちらを見ていた。2人はお互いが少し離れた場所に座っていたから、恐らく友達ではないのだろう。
私は特に気にすることもなく、テキストに集中していた。
翌月、私はまた母を同じ胃腸科の病院へ連れていった。待合室には、例の2人の中高生(?)も向こう側のソファーに座っていた。
ところがその日は、先月と様子が違った。
なんと2人とも、テキストを開いて勉強しているではないか!?
いつも待合室では私だけが勉強していたので、新鮮な驚きだった。
恐らくだが、私が勉強している姿を見て感化されたのではないだろうか?
中・高生の頃にはよくあることだ。そう思うと私は、何故だかニヤリと笑みがこぼれた。
彼らはその後も、毎月のように待合室で、テキストなり問題集なりを開いて勉強していた。
こういう何気ない日常で、人は感化されることがある。私にとってはたわいないエピソードだが、何故だか忘れられない出来事であった。
*母は、令和2年11月13日未明に亡くなりました。享年80歳。
──一方、我が家では
私が宅建試験に合格した年(2010年)、息子の健斗はまだ小学2年生だった。
この年の6月、四谷大塚が無料で主催する「全国統一小学生テスト」に私が事前に応募し、健斗が受けることになった。
私が言うのも変だが、健斗は小さい頃から物覚えがよく、小学校入学前には九九を完全にマスターしていた。
成績もトップクラスで、少し天狗になりかけている点が気になった。
だから私は、健斗に
「上には上がいるんだよ」
と教えてやりたくて、このテストを受けさせることにしたのだ。
国語と算数の2科目のテスト(各150点の計300点で全国順位などを決める)。試験は6月上旬にあり、2年生は全国で約1万5千人が受けた。
健斗は、
「まあまあの出来かな?」
と言っていた。
約2週間後に、成績表が郵送されてきた。封を開けてビックリ!
健斗の成績は、300点中の271点。全国で「32位」、県内で「2位」という信じられない成績だった!!
これには私も驚いた。小学生テストの問題は決して簡単ではなく、算数の最後の大問など、全国平均の得点率が5.7%しかないのだ。
学習塾にも通っていないのに、まさかこれほどとは、、(親バカ全開w)
確かに「上には上がいた」のだが、その数は僅かなもの。天狗の鼻をへし折ってやるつもりが、逆に私が腰砕けになる有り様だった。
とはいえ、この健斗の成績が私を奮い立たせてくれた。約4ヶ月後に控えていた宅建試験で、私は合格を勝ち取ることができたのだ。
まず私が健斗に感化され、それによって合格を達成。今度は私が健斗を感化し、4年後に
「宅建の史上最年少合格」
という名誉?を手に入れたわけだ。
誰かの頑張りが自分に影響を与え、また自分の頑張りが少なからず誰かに影響を与える。
家族に限ったものではない。
学校や職場でも、そういった相乗効果はあるものだ。
あなたの頑張りは、必ず誰かにいい影響を与える。TwitterやFacebookなどのSNSでもそうだ。
頑張っている人がいれば「自分も頑張らなければ」と思うはず。
この記事のタイトルのように、「人は感化し、感化されるもの」である。
今年の宅建試験に挑もうとする皆さんの頑張りは、決して一人では完結しない。必ずや誰かを感化し、それが無限の拡がりを見せる。
負の連鎖ではなく「正の連鎖」だ!
私は皆さんにも、その連鎖の一助を担ってほしいと心から願っている。