──弁護士志望の宅建合格戦略
私の尊敬する井藤公量弁護士は、宅建試験の勉強を本試験の10日前から始めたという。
当時、彼は司法試験(旧)を目指す受験生だった。司法試験には、択一試験と論文試験があり、その両方をクリアしなければならない。
彼は択一試験には難なく合格するのだが、論文の方がダメだった。
井藤弁護士は、著書『資格試験 超効率 勉強法』(日本実業出版社)の中で、こう述べている。
「僕は途方にくれた。択一には合格するのだが、論文には受からない。何かが、間違っているのだ。何だろう。僕は苦悩した。そもそも、試験の直前期に基本書などを読んでいたから落ちるのだが、当時の僕は気がついてなかったのだ」
宅建試験にもそれと同じことがいえる。直前期に過去問を疎かにし、テキストを読むことに価値を見いだしているような受験生は危険信号だ。
司法試験の論文と宅建試験を同列に語ることはできないが、直前期に過去問よりテキストに重点を置く勉強が危険なのは間違いない。そういう意味では、両者は共通していると思う。
彼は、何度チャレンジしても合格できない論文試験の合間に、宅建試験を受けておこうと考えた。願書の申込みは済ませておいたが、宅建の勉強を始めたのは、本試験の10日前だった。
本屋へ行き、15年分の過去問が一冊に収まっている「年度別過去問集」を購入した。買ったのはこれ一冊のみで、テキスト等は購入しなかった。
某大学の法学部出身の彼は、権利関係を勉強する必要がなかった。司法試験の択一に合格する力があるのだから、当然といえば当然である。
とはいえ、宅建業法や法令上の制限などは未知の領域だった。そこで彼は、この2つの分野に絞って勉強し、税その他は捨てる戦略に出た。
この頃の宅建試験は、権利15点、業法16点、法令10点という主要3分野で41/50点の配点がある。当時の宅建試験は、35点取れれば合格だった。
15年分の過去問の中から、業法と法令のみを取り出して勉強したのだろう。なにせ、残された日数は10日しかないのだ。
結果、彼は「41点」で宅建試験に合格した。業法と法令に絞った戦略が功を奏したのである。
──ジグソーパズルを組み立てる
井藤弁護士以外にも、10年分の過去問集一冊のみで合格した人の記事を読んだことがある。
「テキストなしに過去問だけで合格するって、一体どんな頭の構造をしているのだろう?」
彼らの記事を読んで、私が感じた率直な疑問だ。
昨年、Twitterであるフォロワーの方と、そのことについてやり取りしたことがある。
私はその人に対し、
「ジグソーパズルを組み立てていくような感じで、過去問から全体像を把握していくんだろうね」
と、そんなリプライをしたのを覚えている。
言い換えるのなら、過去問の掘り起こし。私たち凡人には難しいことだ。
しかしながら、テキストが傍らに置いてあれば、それに近いことは可能ではないだろうか?
つまり、過去問を解いていく過程で疑問点があれば、すぐさま該当箇所をテキストで調べる。最初のページから一字一句読み込んでいくのではなく、調べるためにテキストを用いるのだ。
①テキスト→②過去問を解く→③解説を読んで理解するという順序ではなく、①過去問を解く→②解説を読む→③それでも理解できなければテキストを読む、という順序の置き換えをするわけである。
今がまだ春先の早い時期ならば、テキストを単独で読み込むのもありだと思う。
だが今はもう追い込み期。テキストの読み込みに時間を費やしている暇などない。
宅建試験に関していえば、後者の順で取りかかった方が早く仕上がるし、合格にも近付ける。
テキストには、試験で問われないことも数多く載っているが、過去問には、試験で問われたことしか載っていない。
焼き直し率の高い宅建試験では、過去問が「最大公約数」とも言えるのだ。
これから本試験までの間、過去問の理解にこそ、時間を使わなければならない。過去問がすべて解け、それが自身の血肉になってきたと感じられたら、合格はすぐ目の前にあると思っていい。
今の時期、過去問が半分取れない人でも、一心不乱に過去問を解きまくれば、まだまだ合格の目はあると私は思っている。
業法と法令をわずか10日間でマスターした井藤氏のように、残りの日数を「過去問」に賭けてみてほしい。
過去問なくして合格はないのだから。