──はじめに
毎年、宅建の受験生を悩ませているものに「個数問題」がある。一昨年の10月試験では、宅建業法で4題の出題があった。
言うまでもなく個数問題は、4つの肢すべてが理解できていなければ解けない。つまり消去法で正解肢を導き出すことができないのだ。
そういう意味では、個数問題は、他の設問に比べて難易度が高いといえる。
私は自身のブログで、夏以降にオススメしてきた3種のテキスト&問題集で、これらの個数問題が正解できるかどうかを調べてみた。
その3種の教材とは、次の3つである。
・どこでも宅建士 とらの巻(LEC)
・ウォーク問❷宅建業法(LEC)
・一問一答 セレクト600(TAC)
以後、一昨年の10月試験で出題された4題の個数問題と照らし合わせながら解説していきたいと思う。
ここから先はすべて2020年版に基づいた分析となっているが、Amazonは最新版のものに差し替えておいた。
──個数問題【問27】を分析する
→肢アについては、ウォーク問❷(問82のエ)に次のような肢があった。
建物の売却について、宅地建物取引業者が代理を依頼されて広告を行う場合、取引態様として、代理であることを明示しなければならないが、その後、当該物件の購入の注文を受けたとき、広告を行った時点と取引態様に変更がない場合でも、遅滞なく、その注文者に対し取引態様を明らかにしなければならない。(2017年 問42)
この肢の答えは◯である。取引態様に変更がない場合でも、遅滞なく、その注文者に対し取引態様を明らかにしなければならない。よって本問の肢アは✕だと分かる。
→次に肢イだが、これはセレクト600(p228)に次のような肢があった。
宅地建物取引業者Aが、宅地の所有者Bの依頼を受けてBC間の宅地の売買の媒介を行った際、Aは、当該宅地に対抗力のある借地権を有する第三者が存在することを知っていたが、当該借地権は登記されていなかったので、Cに対して告げることなく、BC間の売買契約を締結させた。これは宅地建物取引業法には違反しない。
この肢の答えは✕である。重要な事実の不告知等の禁止に違反する。よって本問の肢イは◯ということになる。
→続いて肢ウについて。やはりウォーク問❷(問85の2)に次のような肢があった。
宅地建物取引業者が、複数の区間がある宅地の売買について、数回に分けて広告をするときは、最初に行う広告以外には取引態様の別を明示する必要はない。(2011年 問36)
この肢も✕である。広告のつど取引態様の別を明示しなければならない。よって本問の肢ウは◯となる。
→最後、肢エについて。これもウォーク問❷(問85の1)に次のような肢があった。
宅地建物取引業者は、宅地の造成又は建物の建築に関する工事が完了するまでの間は、当該工事に必要な都市計画法に基づく開発許可、建築基準法に基づく建築確認その他法令に基づく許可等の処分があった後でなければ、当該工事に係る宅地又は建物の売買その他の業務に関する広告をすることはできない。(2011年 問36)
この肢は◯である。許可等の処分があった後でなければ、広告をすることはできない。申請をした後ではない。よって本問の肢エは✕となる。
従って、【問27】はイとウが正しい肢なので、正解は「2」の二つということになる。
──個数問題【問29】を分析する
→肢アについては、ウォーク問❷(問75の3)に次のような肢があった。
宅地建物取引業者A社は、Bとの間で専任媒介契約を締結し、所定の事項を指定流通機構に登録したときは、その登録を証する書面を遅滞なくBに引き渡さなければならない。(2011年 問31)
この肢の答えは◯である。焼き直し問題どころか、AとA社が異なるだけで同じ問題である。当然、本問の肢アも◯となる。
→肢イについても、ウォーク問❷(問78の1)に次の肢があった。
宅地建物取引業者Aが、Bと一般媒介契約を締結した場合、当該一般媒介契約が国土交通大臣が定める標準媒介契約約款に基づくものであるか否かの別を、法第34条の2第1項に規定する書面に記載する必要はない。(2016年 問27)
この肢は✕である。標準媒介契約約款に基づくか否かは、媒介契約書面の記載事項である。よって本問の肢イは◯となる。
→続く肢ウだが、ウォーク問❷(問79のイ)に次の肢があった。
宅地建物取引業者Aが、BからB所有の中古マンションの売却の依頼を受け、Bと専任媒介契約(専属専任媒介契約ではない媒介契約)を締結した。当該専任媒介契約の有効期限は、3月を超えることができず、また、依頼者の更新しない旨の申出がなければ自動更新とする旨の特約も認められない。ただし、Bが宅地建物取引業者である場合は、AとBの合意により、自動更新とすることができる。(2017年 問43)
この肢も✕である。Bが宅建業者であっても、自動更新は認められない。本問の肢ウも、Bからの要望があろうがなかろうが、自動更新はできない。よって✕となる。
→最後の肢エについては、ウォーク問に同種の問題がなく、とらの巻(p239)に専属専任媒介契約における業務処理状況の報告義務が「1週間に1回以上」であることが記載されている。
とらの巻に限らず、基本的なことなので、どのテキストにも記載されているはず。セレクト600の解説部分(p237)にも載っていた。
よって本問の肢エは◯となる。
従って、【問29】はア、イ、エが正しい肢で、正解は「3」の三つということになる。
──個数問題【問37】を分析する
→肢アについては、ウォーク問❷(問98のイ)に次のような肢があった。
宅地建物取引業者は、37条書面を交付するに当たり、宅地建物取引士をして、その書面に記名押印の上、その内容を説明させなければならない。(2014年 問40)
この肢はもちろん✕である。説明義務があるのは35条書面であって、37条書面では必要ない。よって本問の肢アも✕となる。
→肢イの「供託所等に関する事項」は37条書面の記載事項ではない。よって✕である。
37条書面の記載事項については、とらの巻(p256)にまとめられている。
なお、37条書面には、必ず記載しなければならない絶対的(必要的)記載事項と、定めがなければ省略可能な任意的記載事項がある。
→肢ウについては、ウォーク問❷(問99のエ)に次の肢があった。
宅地建物取引業者A社は、建物の売買に関し、自ら売主として契約を締結した場合に、その相手方が宅地建物取引業者であれば、37条書面を交付する必要はない。(2013年 問31)
この肢の答えは✕だ。相手方が業者であっても、37条書面の交付は省略できない。よって本問の肢ウは◯となる。
→最後の肢エも、ウォーク問❷(問98のウ)に次の肢があった。
宅地建物取引業者は、自ら売主として宅地の売買契約を締結した場合は、買主が宅地建物取引業者であっても、37条書面に当該宅地の引渡しの時期を記載しなければならない。(2014年 問40)
この肢は◯である。相手が宅建業者であっても、37条書面は交付は省略できない(上記の肢ウ参照)。また売買の「引渡しの時期」は、絶対的記載事項である。
本問の肢エの「移転登記の申請の時期」も、同じく絶対的記載事項である。よって答えは✕となる。
従って、【問37】の正しい答えは肢ウだけであり、「1」の一つが正解となる。
──個数問題【問40】を分析する
→肢アについて。クーリング・オフは、それが宅建業者から「書面で告げられた日から起算して8日経過」するとできなくなる。
これは基本的なことなので、とらの巻(p266)だけではなく、すべての宅建テキストに記載されている。
書面で告げられた日の翌日が起算点ではない。
よって本問の肢アは「できない」が正解。
→肢イについては、ウォーク問❷(問113の4)に次のような肢があった。
買主Eは、自ら指定したレストランで買受けの申込みをし、翌日、宅地建物取引業者Aの事務所で契約を締結した際に代金の全額を支払った。その6日後、Eは、宅地の引渡しを受ける前にクーリング・オフの書面を送付したが、Aは、代金の全部が支払われていることを理由に契約の解除を拒むことができる。(2003年 問39)
この肢の答えは✕である。クーリング・オフができなくなる条件は、物件の「引渡しを受け、かつ、代金全額を支払った場合」だ。単にEが、代金の全額を支払っただけでは、Aは契約の解除を拒むことはできない。
本問の肢イも、Aが契約の履行に着手=引渡しをした、だけでは条件が満たされないため、クーリング・オフ「できる」が正解となる。
→肢ウについても、ウォーク問❷(問114のア)に次の肢があった。
宅地建物取引業者Aと、宅地建物取引業者でないCとの間で、クーリング・オフによる契約の解除に関し、Cは契約の解除の書面をクーリング・オフの告知の日から起算して8日以内に到達させなければ契約を解除することができない旨の特約を定めた場合、当該契約は無効である。(2018年 問37)
クーリング・オフを郵送でする場合、書面を発した時(ポストに投函した時)に効力が生じる。これを「発信主義」という。
またクーリング・オフに関する特約で、一般消費者に不利なものは無効となる。
このウォーク問の肢は、Cに不利な特約なので無効すなわち◯が正解となる。
本問の肢ウも、買主Bに不利な合意(特約)とみなすことができ、よってクーリング・オフ「できる」が正解となる。
→最後の肢エについては、セレクト600(p266)に次のような肢があった。
宅地建物取引業法第37条の2に規定する事務所以外の場所においてした売買契約の解除に関し、買受けの申込み及び売買契約が、売主である宅地建物取引業者の事務所以外の場所で継続的に業務を行うことができる施設を有するものにおいて締結された場合、専任の宅地建物取引士がそのとき不在であっても、買主は売買契約を解除することができない。
この肢の答えは◯である。事務所以外の場所でも、継続的に業務を行うことができる施設を有する場所は、クーリング・オフができない場所となる。その際、専任の宅建士の不在は、クーリング・オフの可否とは関係がない。
よって本問の肢エも、クーリング・オフによる契約解除が「できない」場所となる。これについては、とらの巻(p266)にも記載されている。
従って、【問40】のクーリング・オフにより契約の解除を行うことができるものは、イとウの肢となり、「2」の二つが正解となる。
──総括すると、、
宅建業法は「満点狙いで最低でも18点以上」がノルマだとよく言われる。実際、業法で点数を稼いでおかなければ合格は厳しい。
それを実現させるためには、個数問題をとらなければならない。逆に、個数問題がすべて正解なら、満点の20点も夢ではなくなる。
2020年度の10月試験では、業法に4題の個数問題が出題された。
この4題が、とらの巻・ウォーク問・セレクト600のみで対応できるかどうかを調べてみたわけだ。
結果として、この3つの教材ですべての個数問題に対応可能なことが分かった。これは、今後の受験生にとっても励みになるであろう。
中でもウォーク問。この分野別過去問集の網羅性の高さが証明されたともいえる。
今年(2022年度)の受験を考えている皆さんの参考になれば幸いである。