──とある受験生のエピソード
某有名弁護士の先生が、まだ司法試験受験生だった頃の話、、
短答試験はすんなり受かっているものの、論文試験に打ちのめされていた彼が、何故だか宅建試験を受けることになった。
バブルの全盛期で、不動産業が大躍進を遂げていたこともあるのだろう。
願書の提出は済ませていたものの、司法試験受験生なのだからそちらが優先。気持ちを切り替えて宅建の勉強をスタートさせたのは、なんと本試験の10日前だった。
書店に足を運び、そこで宅建の教材を物色して手にしたのは、15年分の本試験問題が、見開き2ページに問題と解答という配置で掲載されている過去問集だった。
テキスト類には目もくれず、彼が購入したのはその15年分の過去問集一冊のみ。
その日から司法試験の勉強は一旦中断し、宅建の勉強に集中することになる。
宅建試験が四肢択一であることを初めて知った彼は、戦略を練った。当時の宅建試験は、50点満点で35点あれば合格できる試験だった(分野ごとの配点は今と若干異なっていた)。
司法試験の択一に毎年受かっていた彼は、権利関係(15点)の学習に時間を割く必要がなく、法令上の制限と宅建業法の2分野(26点)に絞って勉強し、あとは捨てる戦略に出たのだ。
わずか10日間で、それも過去問のみで業法と法令の2分野をマスターした彼は、41点で見事合格を勝ち取ったのである。
▶過去問を掘り起こす
https://paparing-takkenshi.com/entry/2020/08/12/191510
上記「過去問を掘り起こす」 は、以前にそのことについて触れたブログ記事である。
──テキストの使い方
実際、20年以上前の宅建試験ならば、過去問だけで合格をつかみとることは可能だった。
ただ前提条件として、もともと地頭がよく、勉強慣れしている必要はあったと思う。
宅建試験は、年によって多少難易度にバラつきはあるものの、難化傾向にあることは間違いない。今の宅建試験は一昔前とは違って、とても一筋縄ではいかないのだ。
過去問だけでは、どうしても知識の抜けが発生し、穴あきチーズのような隙間だらけの知識が形成されてしまう。
この穴をふさぐ意味でも、最低限のテキストの読み込みは必要となる。うってつけのテキストがあるので紹介しておきたい。
・宅建士 出るとこ集中プログラム(2022年版/中央経済社)
学習の初期の段階では、テキストをさらっと読んで一問一答を解く。私の経験上、この学習方法が一番効率的だ。できれば2往復する。
その後は、一問一答のみに専念し、どうしても分からないときに限ってテキストに戻る。
一問一答は最低でも5周し、95%以上の正答率を目指す。これが達成できたら、次は『ウォーク問』に代表される分野別過去問に移る。
すでにテキストは2往復しているので、分野別過去問では、テキストは調べるために用い、過去問学習に時間を割く。
とはいえ、一問一答が完璧ならば、分野別はそんなに時間はかからない。一問一答に費やした時間の4分の1程度の時間で済むはずだ。
──テキストと過去問の時間比率
私は過去のブログで、テキストと過去問の時間比率を2対8ないし3対7と主張してきた。
その考えは今でも変わっていない。だが分野ごとにみた場合、多少それとは異なる。
宅建業法と法令上の制限については、その比率で問題ない。この2分野に関しては、今でも私は2対8で過去問が8だと思っている。
税や免除科目もほぼ同じくらい。
違うのは権利関係だ。民法が大改正されたこともあるが、そもそも権利関係は、理解が伴わないと問題自体が解けない。
その理解は、過去問から得られる断片的なものだけでは足りず、テキストを読み込んで体系的に把握しモノにしなければならない。
他の分野と異なり、権利関係では、知識よりも理解が優先されるからだ。もちろん他の分野も理解は必要だが、権利関係のように思考力を伴った理解が必要とまではいえない。
テキストを読むときも、他の分野はさらっと読めば良かったが、権利関係はじっくりと読み込まなければならない。
だから必然的に時間がかかる。権利関係のテキストと過去問の時間比率は、5対5くらいだと思ってほしい。
過去問を解くときも他の分野より時間がかかるし、その比率が丁度いい。
またそれくらいの時間をテキストに割かないと理解が追いついていかないと思う。
特に法改正部分は、過去問のストックがまだまだ不足しているため、テキストの読み込みは避けられない。
異論はあるだろうが、それでも全体としては、過去問に時間の大部分を費やすべきだと私は思っている。
各肢に内包された論点を頭に叩き込めば、模試や本試験が瞬殺できるからだ。
宅建試験は、時間との闘いでもある。業法や法令の問題を瞬殺できれば、最後に権利の問題を解くときに、時間に余裕ができる。
じっくりと考えながら解く時間が捻出できるのだ。私の場合、本試験の直前期に、いかに業法の問題を早く解くことができるかが課題だった。
直前期は再び一問一答に戻って解いていたのだが、一問あたり2秒を目標に、5秒を超えたら正解していても✕とカウントしていた。
その甲斐あってか、本試験では業法で19点とることができた。
業法と法令、特に業法では、直前期にこの訓練は絶対にした方がよい。
最後にもう一度だけ、目安となるテキストと過去問の時間比率を掲げておく。言うまでもないが、左がテキスト、右が過去問である。
・権利関係→5対5
・権利関係以外→2対8ないし3対7