──小5の夏休みを終えて
小学校とはいえ、夏休み明けの2学期はいろいろな行事があって、思いの外忙しい。
健斗も、委員会活動などに忙殺され、学校から帰った後は、日々の宿題を片付けるだけで精一杯のようだった。
それでも眠たい目を擦りながら、9月に初めて手を付けた『ウォーク問』❸法令上の制限・税・その他を少しずつ解いていった。
健斗の小学校では、委員会活動は前期と後期の年2期に分けて行われる。
前期の学級委員長も9月末で終わるから、10月以降の直前期は宅建の勉強に専念できると思っていた。
ところが今度は、後期企画委員(中学でいう生徒会の役員ようなもの)に任命されてしまったのだ。大事な追い込み期だというのに、、
そういうのを断りきれないのが健斗の弱さというか、親としても複雑な気持ちだった。
──追い込みをかける
宅建試験は、通常10月の第3日曜日に行われる。平成25年度は、10月20日が本試験日となる。
直前期に権利関係はやらず、配点の高い宅建業法と、法令上の制限・税・その他の『ウォーク問』❷❸を並行してこなしていく日々が続いた。
夏休みの終わりにユーキャン、10月上旬にLECの直前予想模試も解いた。
ユーキャン模試は30点前後だったが、10月初旬に解いたLEC模試では、33~36点くらいまで上がっていた。
──想定外の出来事
本試験を2日後に控えた金曜日の夜、とんでもない事実が発覚した。
以前に『ウォーク問』を繰り返し解いていく過程で、問題集の上のところに正解していれば◯、間違えたのなら✕を、左から順に付けていくように健斗に指示しておいたことがある。
例えば、そのページの問題を計5回解いたのなら、✕◯✕◯◯のような印になるように、、
権利関係と宅建業法はそれなりに✕も目立ったが、法令上の制限は、やけに◯が多く感じた。
5周してたけど、最初だけ✕が散見されたが、2周目以降はほぼすべてに◯が付いていた。
「もしかして、、」
私は嫌な予感がした。
試しに、4回連続で◯が付いている問題を、いくつか私が見ている前で健斗に解かせてみた。
案の定、半分くらいの問題で正解番号を導き出すことができなかった。
「ここにきて何てことだ。もう間に合わない」
一瞬、血の気が引く思いだった。
「ごめんなさい」
健斗が目に涙を浮かべながら、か細い声で謝ってきた。
ただでさえ難しい法令上の制限。
学業だけではなく、企画委員の仕事などに忙殺されて、健斗も一杯いっぱいだったに違いない。
ほんの少しズルをしただけ。
気付いてあげられなかった私にも非があったのだ。
直後に、健斗はこう言った。
「明日は法令上の制限だけやる。全部は無理でも、できるだけ◯が付くように頑張ってみる」
少し間を空けて、こうも言った。
「お父さんごめんなさい。まだ受かりたい気持ちがあるから頑張る」
市販の模試は私が採点したのだから、あの点数は本物だ。
五分五分いやそれ以下かも知れないが、可能性はゼロじゃないんだ。
私は自分自身に言い聞かせた。
これまで二人三脚で頑張ってきたんだ。今一度、健斗のことを信じてみようと思った。
──そして運命の日
20日(日)の本試験日は、朝からひどい雨だった。試験会場は、岡崎市にある人間環境大学。
最寄りの駅から電車に乗り、本宿駅という小さな駅で降りて、山の上にある大学まで約1km弱。
スコールのような激しい雨に打たれながら、坂道を登って会場に到着。
傘をさしていたとはいえ、膝から下はびしょ濡れ。
靴の中まで雨が浸透し、靴下もぐしゃぐしゃだったから、会場の外の屋根のある場所で、健斗も私も、靴と靴下を脱いで裸足になっていた。
雨が降っていたせいか、当日はとても寒かったのを覚えている。
本試験は、午後1時から3時の間に行われ、問題はすべてマークシート。
この間に、四択問題を50題も解かなければならないから、あとは時間との闘いとなる。
私は、校舎内に入ってすぐの自動販売機があるロビーの椅子に座って待っていたのだが、さすがにこの時間は長く感じた。
午後3時に試験が終わると、5分くらいしてから健斗が戻ってきた。
「どうだった?」
「まあまあかな。宅建業法、結構できたよ」
「権利と法令は?」
「それはちょっと難しかったかも」
こうした会話をいくつかした後、健斗と私は会場をあとにした。
あれほど激しく降っていた雨も、帰る頃にはすっかり止んでいた。
夕方になると、各予備校が、正解番号をネットに公開し始める。
中でも総合資格学院は、受験生が自分がマークした番号をネットに打ち込むと、何点だったかを返信メールで知らせてくれるサービスをしていた。
健斗には、問題用紙に自分が選んだ番号が分かるように肢の数字を◯で囲むように伝えてあったから、早速、それを見ながら番号を入力していった。
すぐに返信メールが届いた。
健斗の点数は、
「31点」
だった。やはりダメだったか、、
予備校の講師陣が言うには、
「宅建業法と法令上の制限は例年通りの難易度だったが、権利関係は難化していた」
とのこと。
「法令上の制限は例年通りの難易度だったんだ、、」
やはりこれが敗因だった。健斗は、その法令上の制限で8問中4点しか取れなかったのだ。
権利関係は、毎年14問中で半分の7点取れればいいと言われているので、難化した今年は6点でも仕方がない。宅建業法は、20問中で18点もあったのだから、こちらは申し分ない。
できれば法令上の制限で、8問中6点欲しかった。そうすれば33点でギリギリ受かっていたのに(この年の合格基準点は33点以上)。
それ以外は、税関連が3問中1点。免除科目が5問中2点。こちらもイマイチ。反省点は多い。
──ここからが本当のスタート
12月初旬の合格発表日、いや不合格発表の日。私は健斗に言った。
「来年も宅建受けるか?」
健斗は即座に、
「受ける!」
という力強い返事。
その言葉を聞いて、私は確信した。
来年の今頃は、きっと合格の余韻に浸っているに違いない、と。